本記事では保険会社と保険代理店の違いについて説明していきます。
保険会社と保険代理店の関係はいわゆる「メーカー」と「販売会社」という表現がされることが多くあります。
保険会社と保険代理店の違いは、業界に身を置いていない場合や接点がない場合にはあまり意識されず、自身の就職活動を思い返してみても、保険会社と保険代理店の区別がそもそもついていませんでした。
今回は保険会社と保険代理店の違いを、それぞれのビジネスモデルから解説していきたいと思います。
なお、保険商品の販売会社は保険代理店だけではなく、他にも保険仲立人(いわゆる保険ブローカー)や金融サービス仲介業者などがありますが、ここでは代表的な販売会社である保険代理店について説明します。
1.保険会社
保険会社(損害保険会社、生命保険会社、少額短期保険会社)は簡単に言えば保険商品のメーカーです。
様々なデータや統計(過去の事故率や保険金支払額など)を活用して保険商品(例えば自動車保険や医療保険など)を開発し、販売(引受審査※を含む)しています。
多くの損害保険会社は保険代理店や保険仲立人などの販売事業者を通じて販売を行っていますが、直接販売する保険会社もあります。
※保険商品を顧客に販売するにあたっては、保険会社の引受基準に準拠する必要があり、必要以上に高額な保険契約などは販売できない場合があります。
また保険商品の約款に定められている保険事故が発生した場合には、有無責(保険金の支払い対象か否か)判断、支払保険金の金額の決定、保険金の支払いを行います。
(その他様々な保険周辺サービスや機能もありますが、ここでは割愛します。)
2.保険代理店
保険代理店は、保険会社がメーカーだとすると、販売会社といえます。
保険代理店は保険会社の代理として個人や法人のお客様に対して保険販売(保険契約の締結や保険契約の媒介)を行います。
つまり実際にお客様と対面し、保険の商品を提案する営業の最前線ということになります。
その他契約後の各種手続き(住所や内容の変更など)やアフターフォローについても保険代理店が窓口となり、保険会社に連携します。
なお保険代理店は代理店業務委託契約を締結した保険会社の商品しか販売することができません。
複数の保険会社の商品を取り扱う保険代理店は乗合代理店と呼ばれています。
↓参考 保険代理店の種類
乗合代理店は様々な保険会社の商品を比較して提案することができます。
また契約者の立場から見ても複数の保険会社と契約する場合、乗合代理店で契約することで、何かあった時の連絡先、相談窓口を乗合代理店に1本化することができるというメリットもあります。
column 少し話はそれますが、保険会社の営業は2つに分かれます。 1つは日系大手生保においてよく見られる、営業職員による直接販売・訪問販売などです。 もう1つは、保険会社が保険代理店に対して販売支援をするという意味での代理店営業です。 損保会社の場合、営業のメインは後者です。 前者のように営業職員を抱え、自ら販売をする保険会社もあるため、厳密には製販の垣根というのは非常に曖昧なものです。
3.保険会社の収益構造
保険会社が収益を伸ばすためには、保険契約が多くなれば比例して利益も増えるかというと、単純にそうとも言い切れません。
なぜでしょうか。保険会社の本業である保険引受の収益構造がどうなっているのかみてみます。
損害保険会社の収益
基本的には本業の保険引受収益と、資産運用収益で構成されています。
保険引受収益を見るうえでは、損害率と事業費率、コンバインドレシオという言葉を理解しておく必要があります。
損害率とは、正味支払保険金(保険会社が支払った保険金から、再保険会社より受領した再保険金を引いたもの)と損害調査費の合計を正味収入保険料(保険会社が受領した保険料から、再保険会社に支払った再保険料を引いたもの)で割ったものです。
つまり保険料として入ってきたものが保険事故のためにどれだけ保険金として支払われたかの割合です。
損害率 =(正味支払保険金+損害調査費)÷ 正味収入保険料
事業比率とは保険引受に関する営業費用や一般管理費、その他手数料や集金費などの合計を収入保険料で割ったものです。
つまり営業費用などが収入保険料のうちどれだけの割合かをはかる指標です。
事業費率 =(保険引受に係る営業費及び一般管理費+諸手数料及び集金費)÷ 正味収入保険料
コンバインドレシオは損害率と事業費率の合計となります。
そのためコンバインドレシオが100%を超えるようであると、保険引受での収益が赤字になっているという見方ができます。
コンバインドレシオ = 損害率 + 事業費率
契約が増えて収入保険料が増えたとしても、損害率や事業比率が高くなり、コンバインドレシオが100%を超えるようであれば、利益がでないことになります。
つまり収益を上げるためには契約を増やすという視点だけでは不十分です。
事故防止のためのロスプリベンションサービスをセットで提供し損害率を下げつつ、営業活動を効率化することで事業費率を下げることが必要になってきます。
実際の数値を、日本損害保険協会の2023ファクトブック(2022年度の内容)から見ていきます。
日本の損害保険-ファクトブック|日本損害保険協会 (sonpo.or.jp)
損保全体ということになりますが、損害率は64.9%、事業比率は32.6%でコンバインドレシオは97.5%です。
特に損害率は台風などの大規模な自然災害に影響を受けるため年による変動が激しくなっています。
事業比率に関してはおおよそ32-33%程度で推移しています。事業比率を減らしていくことも必要になります。
ここまで見てきた通り、コンバインドレシオは直近90%を超えています。
自然災害の影響があった年は100%に近くなっており、大規模な災害があると100%を超えることがあります。
100%を超えてくると、保険引受での収益を上げるのが難しく、本業での赤字を資産運用でカバーしている状態になります。
資産運用は文字通りですが、資産を預貯金等,貸付金,有価証券,土地・建物などで運用することで利益を得ています。
保険会社が高い純利益を上げているというニュースを見たことがあるかもしれませんが、これは本業ではなく資産運用で収益を上げていることが大きな要因となっています。
生命保険会社の収益
生命保険会社の収益源の考え方は損害保険と同様です。
生保では、事業比率や損害率、コンバインドレシオではなく、一般的に利益の源泉として「死差益・費差益・利差益」の3つ言葉を用いることが多いです。
まずは死差益です。
過去の死亡率の統計をもとに将来の支払い保険金額を見積り、実際に支払った保険金が少ない場合に生じる利益のことです。損保でいう損害率に考え方は似ています。
費差益は、事業運営に必要な費用の事前の見積りよりも実際の事業費が少なく済んだ場合の利益のことです。事業費率と似た考えです。
利差益は運用によって得られる利益について、当初予定していた利率を超えて運用収益が得られた場合の利益です。
なお、生命保険の場合は運用資産が損保とは桁違いです。
総資産でいうと損保は32兆円弱なのに対し、生保は407兆円弱です。
生命保険の動向 | 生命保険協会 (seiho.or.jp)
新NISAで盛り上がっている今日この頃ですが、生命保険会社の名前を冠にしている投資信託があるのを見たことがあったりもするのではないでしょうか。
また生命保険会社の利益を図る指標としては「基礎利益」と言われる言葉があります。
生命保険会社の利益が知りたいと思った場合には「基礎利益」で検索をするのがよいです。
「基礎利益」とは、保険料収入や保険金・事業費支払等の保険関係の収支と、利息及び配当金等収入を中心とした運用関係の収支(順ざや。マイナスの場合は逆ざや)からなる、生命保険会社の基礎的な期間収益の状況を表す指標で、一般事業会社の営業利益や、銀行の業務純益に近いものです。
初めてでも分かりやすい用語解説|第一生命ホールディングス株式会社 (dai-ichi-life-hd.com)
生保の場合は契約が増えれば増えるほど良いのでしょうか。
種目によっては運用資産が増えることに繋がります。一方で新型コロナ禍におけるみなし入院により保険金支払いが増えた際には、収益が落ちたこともありました。
どんな契約が増えるのかということや、その時の環境にも影響を受けます。
4.保険代理店の収益構造
保険代理店は非常にシンプルです。
保険代理店は契約をしている保険会社の商品の募集をし、手数料を保険会社から受け取ることで主に収益をあげています。
保険代理店にも種類がありますし、多くは代理店業以外の事業も営んでいる兼業代理店です。(カーディーラーや修理工場、不動産業等)
そのため兼業代理店であれば別の収益源もあります。
↓参考 保険代理店の種類
保険代理店にはどのような種類があるか | 企業代理店port | 企業代理店port (kigyodairiten-port.com)
日本全体として人口は減少していきますし、貯蓄から投資へという機運も高まっています。また業界としてコンプライアンスの問題もありました。
保険を募集することには高い専門性と倫理観が必要になります。
保険代理店として数十年後も生き残るためには、如何にして業務品質を上げながら本業収益を伸ばし、かつ手数料以外に収益源を作り出していくことができるかがカギになっています。
5.まとめ
ここまで、保険会社と保険代理店の違いをビジネスモデルから見ていきました。
細かく突っ込んでいくと保険会社と保険代理店それぞれでも様々な違いがあります。
企業代理店portでは引き続きいろんな角度から保険業界について発信していきます。
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