2024年3月より金融庁にて「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」が4回にわたって開催され、企業代理店(=企業内代理店)のあり方が論点の1つになりました。
そこで本記事では有識者会議報告書について、企業代理店がなぜ注目されたのかを株式会社hokanの中村弁護士より寄稿いただき解説しています。
有識者会議の議事録や報告書全体の解説はhokan社のHPのcolumnもご覧ください。
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1.企業内代理店と実務能力向上の指摘
有識者会議において、企業内代理店は非常に辛辣な批判を受けています。
たとえば、「本来、こうした実務能力の乏しい保険代理店は、公正な競争環境のもとでは淘汰されていくのが自然である。」、「企業内代理店は、戦前からの損害保険市場における効率的な保険募集の実現に一定の役割を果たしてきたが、損害保険市場を巡る環境が大きく変わる中で、その役割を終えつつあるとの指摘もある。」(報告書17p)とされています。
私がこの記事で申し上げたいのは、「企業内代理店は実務能力が低い」ということではありません。
なにがいいたいのかといいますと、「なぜ、企業内代理店がここまで批判を受けたのか」を考察したいのです。
といいますのも、企業内代理店が議論されたのは保険料価格調整問題に関する議論においてであり、カルテルの話を問題にするのであれば、「企業内代理店については情報交換を禁止するべき、情報交換するような仕組みを解消するべき」という報告がなされたらそれでよかったと思われます。
ところが、有識者会議では、企業内代理店の特殊な立ち位置とその実務能力についてまで上記のように言及がされました。
ここの議論の流れにはやや行間があるように思われましたので、本稿ではこの行間を埋める試みをしていきたいと思います。
2.カルテルの文脈での指摘
まず、有識者会議の中で、特にカルテルの文脈で企業内代理店が果たす役割が注目されました。具体的には、報告書の中で以下の指摘があります。
企業内代理店が、損害保険会社の代理店である一方で、企業グループに属し、その立場が構造的に不明確なものとなっており、一部の事案では、企業内代理店を介した競合他社との競争関係情報のやり取りが発生するなど、独占禁止法の抵触リスクを高めていたおそれがあった。(報告書14p)
このような指摘にいたった背後には、以下のような事例が損保協会「保険契約引受にかかる独占禁止法上の留意点」(2024年3月)に記載されるに至っていることから、実際に行われていたものと推測されます。
例年、他社が幹事保険会社となっている保険契約で、更改後契約に関する入札の案内があった。代理店からは幹事保険会社が応札予定の保険料水準を提示され、非幹事保険会社として同様の保険料水準で更改後契約を引き受けできるか、できるのであれば幹事保険会社よりも高い保険料水準で応札して欲しいとの打診があった。代理店に引受可能と回答し、代理店の要請に基づき、幹事保険会社の保険料水準を上回る水準で入札した。(留意点16p)
このように、企業内代理店はカルテルの文脈において、競争関係情報のやりとりに介在する存在として指摘されていますし、実際に、損保協会からも間接的な情報共有として、独占禁止法に抵触する恐れが指摘されております。
では、なぜ企業内代理店に対する指摘はこれで終わらず、その実務能力まで言及されるに至ったのでしょうか。
3.双方代理的な特殊な立場と保険会社・企業内代理店間のコミュニケーション
企業内代理店は、自社の保険ニーズに応じた最適な保険商品を提供(購入)することを目的として設置されます。
グループ内のリスクに精通した企業内代理店の存在により、企業グループは全体的なリスク管理を強化し、保険コストを削減することができます。
しかし、この運営形態がどのような影響を与えるかについては慎重な検討が必要です。
というのも、保険コスト削減の背後には、グループ全体で見たときに保険料の支払いに対して、企業内代理店に対して代理店手数料が収入として入ってくることが計算されていると考えられることから、単に支出を抑えるという意味でのコスト削減ではないからです。
このように見てみると、企業内代理店には独立系の保険代理店と異なり、双方代理という高度な判断を求められる立場にいることが見て取れます。しかし、この立場にはリスクがあります。
第一に、利益相反のリスクです。
企業内代理店は、企業の利益を最優先に考えながらも、保険会社との関係を維持する必要があります。このバランスを保つことは容易ではありません。
ここで重要なことは、有識者会議の指摘は、「企業内代理店の立場は顧客企業の側に立つもの」で「保険会社からの企業内代理店への指導、監督がなされていない」という流れになっていることです。
具体的には、「企業内代理店は、その立場が不明確であるとは言え、人的・資本的関係を踏まえれば、保険契約者である顧客企業の立場に立つものであるとみられることが一般的である。そうした前提のもとで、損害保険会社が顧客企業グループの一員である企業内代理店を適切に指導等することは困難であり、その結果、保険代理店としての実務能力の向上が図られていないのではないかという指摘もある。」(報告書17p)。
ここから見て取れるのは、企業内代理店は、法的には保険会社側の立場であるにもかかわらず、保険会社からは顧客企業側に立つとみられていることです。
そのため、保険会社が、保険代理店としての指導を行っておらず、顧客企業にとって適している保険契約を判断するだけの実務能力が向上していない、という流れとなっています。
次にリスクとなるのは、保険会社と企業内代理店の間のコミュニケーションの透明性が図れないことです。具体的には、有識者会議第3回において、金融庁から以下のような問題提起もなされています。
顧客企業の入札や見積り合わせを企業内代理店が実質的にコントロールするケースにおいて、当該代理店から保険条件等に関する要請を受けた際、当該要請が、実際には顧客企業の意向か否か明らかではないのに、顧客企業の意向であると損害保険会社の営業担当者が認識する場合があった。
このように企業内代理店が保険会社との緊密な関係を持つことで、保険商品の選定や価格設定において、企業内代理店の要請により、市場競争が歪められるリスクがあるとの懸念が示されました。
4.まとめ
さて、本件の保険会社によるカルテルという事象と、企業内代理店の実務能力の向上の指摘への流れについて整理します。
報告書によれば、保険会社の情報交換は顧客側に立つと見られる企業内代理店を介して行われているものがありました。
本来、企業内代理店は、顧客企業のリスクマネジメントをして保険契約の内容を比較し、最適な保険を選択するべきで、保険料調整の要請などするべきではありません。
しかし、その双方代理的な立場のため、企業内代理店は代理店手数料を計算に入れると保険料を積極的に引き下げ、保険契約を吟味するインセンティブが弱まる可能性があります。
さらに、企業内代理店の要望が顧客企業の要望であるかのように保険会社に伝わるような関係にありました。その結果、市場にゆがみが生じていた可能性があります。
そうして、この市場のゆがみを是正するには、企業内代理店が、(法的な建前に従い)保険会社側の立場を明確にし、保険代理店として顧客企業のリスクマネジメントを行う必要があります。
そのためには、企業内代理店が独立した保険代理店として十分な実務能力を備えていることが必要とされます。
このような流れで、企業内代理店はグループから自立して保険募集を行うことが促され、保険代理店としての実務能力を高めることが強く指摘されることとなったと考えられます。
(寄稿部分以上)
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